顔面神経マヒについて
平成19年3月掲載「くまもと版 家庭の医学本 VOL.2」より
主に片側の顔面の筋肉の動きが麻痺して、動かせなくなることを顔面神経麻痺といいます。急に片目だけ閉じなくなったり、口の片側をすぼめることができなくなったりして気づくことが多いようです。運動神経の麻痺ですから、顔面の感覚低下や神経痛、筋肉のけいれんなどはみられません。
顔面神経麻痺を大きく分けると、大脳や脳幹部の障害(脳腫瘍や脳血管障害)によって起こる中枢性麻痺と、脳幹から出た顔面神経の走行中の障害によって起こる抹消性麻痺があります。左右の脳幹から出た顔面神経は頭蓋骨内の内耳道を通り、中耳で鼓膜周囲に枝を出したあと、耳下腺を貫いて顔面に出て顔の動きの調節のための運動神経となって、顔面の筋肉(表情筋)に分布されます。これらのどこの障害でも発症することになります。抹消性麻痺の原因には、外傷、中耳炎からの炎症の波及、帯状疱疹によるもの(ラムゼイ・ハント症候群)などがありますが、外来で遭遇する顔面神経麻痺のほとんどが、「ベル麻痺」と呼ばれる特発性顔面神経麻痺です。以下、この「ベル麻痺」について述べたいと思います。
- どんな症状がありますか?
- 夜間冷たい風に当たった後やカゼのような症状の後、急に顔面の片側の額の筋肉(前額筋)、目の周りの筋肉(眼輪筋)、口の周りの筋肉(口輪筋)などの麻痺が出現します。それぞれ上を向いたとき額にしわが寄らない、目を閉じても完全に閉まらないために白目をむいてしまう、会話中に麻痺していない方へ顔面筋が引っ張られる、口の角から食べたものがこぼれる、口笛が吹けないなどの症状が出現します。また、顔面神経の障害されている範囲によっては涙が出にくい涙分泌減少や、鼓膜の症状(聴覚過敏)や、舌の前方の味覚障害が生じる事もあります。症状が長引くと、寝ている時にまぶたが閉じないために角膜や結膜が乾燥して、結膜炎を併発する事もあります。
- 診断はどうするのですか?
- 急に発症した顔面神経麻痺で他に症状がない場合は比較的簡単に診断できますが、他に原因がないか、神経内科や脳神経外科を受診して詳しい診察と検査を受ける事が肝要です。脳腫瘍などによる中枢性顔面神経麻痺かどうかは、外見だけではわかりにくい事があるからです。
- 治療法はありますか?
- 顔面神経の炎症と浮腫(腫れ)を軽くするために、症状の重症度に合わせたステロイドホルモンの内服や点滴が行われます。ステロイドホルモンの内服は1~2ヶ月で中止しますが、徐々に減量する必要があります。自己判断で急にやめると副作用が出ることがあるので、主治医の指示に従って服用するようにして下さい。最近、ヘルペスウイルスが原因とする説があり、抗ウイルス剤を併用することもあるようです。
顔面神経の炎症が消失するまで、麻痺した顔面筋の回復を促すためのリハビリテーションとマッサージが大切です。なでる程度のマッサージを1日3回行いながら、同時にリハビリテーションを行います。これは鏡を見ながら、驚く、笑う、口をとがらすなどの多彩な表情を繰り返すもので、動きにくい間は手で補助しながら、筋肉の収縮を起こさせるように努力します。10回ずつ1日5回から開始して、顔面筋の動きが可能になったら、20回ずつ1日10回行います。
夜間睡眠時にまぶたが閉じないと角膜が乾燥することがあるので、ガーゼとテープを使って保護する事もあります。
- 予後はどうでしょうか?
- この病気は機能回復が良好ですが、まれに回復に長時間かかる人や完全な回復が期待できない例もあります。このような場合のみ、神経の圧迫をとるための手術や形成外科的な手術を行う事がありますが、ほとんどの患者さんは時間をかければ完全に治ります。回復が思わしくなくても気長にリハビリテーションを続けて下さい。